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「第4回 高校生が競う エネルギーピッチ」 

本校理数科2年生が、「第4回 高校生が競う Energ y Pitch! ””30年後の現役世代”が2050年を構想する 社会の問題解決 with Energy プラン コンテスト」に出場し、その内容について、校長室へ報告に来てくれました。

私達チームは、「海水から生まれる水素の可能性」について説明しました。

私達が将来エネルギーを有効活用していくための方法として提案するのは「水素ステーションを各地に作り水素シティを作る」です。このことがなぜ将来有効だと考えたのか、実現するには何が必要かを、詳しくお伝えします。

まず動機です。私達は、現代社会や地理の授業でカーボンニュートラルについて知り、興味を持って調べてみたところ、日本は2050年までにカーボンニュートラルを実現すること、再生可能エネルギーの使用量を増やすことを目標にいていることが分かりました。そこから、実質的なカーボン排出量0にするためには水素の供給を今よりさらに増やすべきだと考えたため、今回の研究テーマに取り上げました。

日本のエネルギー問題についてです。日本の主な発電方法は火力発電であり、多くの化石燃料を使用しています。このグラフは2021年、日本が発電に使用しているエネルギーの割合を示したものです。これによると日本は発電の際おおよそ70%の化石燃料を使用していることが分かります。これにより多量の二酸化炭素が発生し地球温暖化を進めているのが現状です。しかし、世界にはそれを解決できるエネルギーが存在します。それが皆さんのよく知る再生可能エネルギーです。太陽光や水力など、どれも二酸化炭素は排出しないのが特徴ですが、その再生可能エネルギーはあまり広がっていません。なぜでしょうか。

一つ目は非常に安定性に欠けるからです。例えば太陽光では日中の日が当たる時間は発電量が多く、反対に夜間は日が当たらないため発電することができません。水力や風力も、常に十分な水量や風量を確保するのは難しいです。二つ目は土地生産性があまり良くないことです。こちらの表は日本最大の火力発電と日本最大の太陽光発電所の発電量、敷地面積から1平方キロメートルあたりの発電量をそれぞれ求めたものです。これは我々がデータをもとに作成し計算したもののため、誤りがあるかもしれません。この表によると、火力発電と太陽光発電の間には51倍の差があることがわかります。あくまでも例なので一概に発電効率が悪いとは言えませんが、太陽光発電には広い敷地が必要ということがわかります。水力発電もダムという大きな建造物が必要になってしまいます。また、風力発電に関しては洋上に建てることで、土地の問題は解決できますが、洋上設置時のリスクは地上と比べて非常に大きく、また、落雷による火災で装置が故障した場合の環境への影響は計り知れません。

このように、今注目される再生可能エネルギーもデメリットがあることがわかります。しかし、これらの問題も解決できる、非化石エネルギーがあります。それこそが冒頭で取り上げた水素なのです。水素についてです。水素はまさに次世代エネルギーといえるでしょう。まず、利点として水素を燃やして電気を得る際に二酸化炭素を排出しないことが挙げられます。しかも、現在の火力発電に使われている化石燃料を水素に置き換えるだけなので、発電効率は現在の火力発電とほぼ変わりません。次に水素はアンモニアに変換することが可能です。水素は気体のため体積がかなりあります。そして電気そのものは貯蓄が難しいです。しかし、その水素をアンモニアに変換すれば、水素の体積を1300分1にすることができ、また電気の貯蓄もエネルギーの形を変えて保管できます。貯蓄ができれば災害時にその水素を利用して発電がおこなえますし、各地で水素が足らなくなった場合は貯蓄したものを運搬することもできるのです。またアンモニアそのものを肥料や工業用に利用することも可能です。さらに、水素は車の燃料にも使えます。現在トヨタにて販売されているMIRAIは燃料電池自動車として販売されています。そして工業面での還元剤としても使えます。現在製鉄をする際には炭素を使って酸素を還元し二酸化炭素に変えて鉄の純度を高めています。その還元剤として水素を使うことで発生する物質を水に変えることができます。これらの利点をまとめるとこのようになります。仮に水素が利用できる時代になれば素晴らしい社会を作れるでしょう。

ここまでの用途を聞くと水素は発電以外の私たちの生活にも大きく関われることがわかるのですが、どうして水素がまだ私たちの生活にあまり入り込めていないのでしょうか。

その理由はまだ水素には乗り越えるべき大きな問題が存在しているからです。一つ目は水素の価格が他のエネルギー源に比べて高いことです。この図を見てください、このように水素は非常に価格が高く、現状需要が広がっていません。二つ目は水素を安価で製造するにあたって二酸化炭素が出てしまうということです。それでは発電時に二酸化炭素は排出しないものの、全体的には二酸化炭素を排出してしまっています。

つまり、その水素を得る場所をどこにするのかというのに、問題があるのです。そもそも現在、日本で工業的に水素を得る方法のほとんどは、水蒸気改質法です。これは化石燃料と水蒸気を反応させて水素を得る方法ですが、生産過程において二酸化炭素を排出しています。冒頭の日本のエネルギー問題でも語りましたが、そのままでは地球温暖化を進めてしまいます。そこで、私達は海水を電気分解して水素を得てはどうかと考えました。なぜ海水がいいのか、それには3つの理由があります。一つ目は地球上にある水の97%は海水であるからです。なんと私たちが普段の生活で使用している淡水は地球上で僅か3%しかなくそのうちのほぼ全てが地球上の氷であるのに対し、海水は97%も存在しているのです。よって資源として枯渇することがほとんどなく、持続的に補給することが出来るのです。二つ目は日本が島国であるからです。エネルギー源を海水にすれば、他国に比べてエネルギー自給率が劣っている日本でも容易でかつ多量にエネルギー源を入手できます。三つ目は自国でエネルギー源を自給できるため、世界のエネルギー情勢に左右されないからです。例えば、この記事にあるようにロシアとウクライナの戦争により、エネルギー源を55%もロシアに依存していたドイツでは、ロシアからのガスが途絶えてしまい、家庭用のガス料金は平均的に危機前の2倍に上昇しました。日本も輸入に頼っているだけでは、いつかドイツと同じような状況になってしまう可能性があります。ですので、自給自足できる海水は日本にとって最適なエネルギー源と言えるでしょう。

それでは、水素はどのように生産すればいいのでしょうか。これは、私たちがフィールドワークで学んだ海水を電気分解して水素を得る方法です。

私たちはこの中でSOECが一番優れていると考えました。アルカリ、PEMは海水をろ過して不純物を取り除いてから電解するのに対し、SOEC、MnO2は海水を直接電解するので効率が良いです。運転温度ではSOECが一番効率は悪いのですが、アルカリでは電解質を入れなければならないので手間がかかり、PEMは貴金属のため価格が高いデメリットがあります。大型化したときの電力は開発によって向上すると考えると、SOECはこの中で一番システム効率がよいため期待できます。そのため、私たちは日本では「SOEC」が適していると考えました。

では、その水素を製造するときに使う電力はどこから得るのでしょうか。それは日本などの先進国の場合は余剰電力を使用します。余剰電力とはその名の通り、需要を越え余分に作られてしまう電気のことです。現在日本では、余剰電力が発生したときに再生可能エネルギー関連の発電所を停止させることで電気の流し過ぎを起こさないようにしています。つまり、本来再生可能エネルギーで作れるはずの電気を無駄にしてしまっているということです。そのときに、余剰電力の受け入れを水素製造工場で行うことができれば、環境に負荷をかけることなく水素を製造することができます。

先進国でない国では新たに再生可能エネルギーの発電所を水素製造工場の建設とパッケージとしてともに建設を進め、再生可能エネルギー由来の電力で水素を製造することで電力を得ていきます。

しかしながら、欠点があるのは事実。そこで「SOEC」の欠点を解決する方法について考えていきます。まず、700℃の高温水蒸気を作るための熱を何から得るかということです。この熱は、現在稼働している火力発電、原子力発電や、排熱が多い職種である鉄鋼、パルプ、食料品工場、ゴミ処理場などの排熱を利用することが効率のいい方法だと考えました。特に食品工場について、日本はツナ缶工場のような海産物を加工する工場が沿岸部に多いので、排熱の利用がしやすいと考えました。次に考えるのは将来に多くの水素が利用されるようになると、自国の生産では足りなくなる日が来るかもしれないということです。その時は海外から水素を輸入することが必要になります。その対策として提案するのは日本が、海水に面しているのに飲料水を手に入れられないような国に、海水をろ過する技術を教えることです。そこから生産された飲料水の一部を「PEM」を使って水素を作ります。なぜならこの場合ろ過した水を用いる上に、飲料水に困るような途上国では管理が比較的簡単な「PEM」がふさわしいからです。そうしてできた水素を日本が買い取るのです。そうすれば日本は水素を手に入れられますし、その国の経済と国民の命を助けることになります。日本は国際社会での地位を築けるかもしれません。

それでは、水素の輸送にはどうすればいいでしょうか。水素の輸送には液化水素にする、トルエンに水素を反応させてMCHにする、窒素と反応させてアンモニアにする、CO2と反応させてCH4とするなどして体積を小さくしてから運ぶことが考えられます。まず海外からの輸送についてかんがえていきます。この中ではアンモニアが適していると私たちは考えました。アンモニアにすることで体積を水素よりも1300分の1にできる上、現在はアンモニアのインフラ整備が整っており、アンモニアのままでも発電できたり、肥料として使用することもできたりするからです。次に日本国内の輸送を考えていきます。水素を運ぶ方法としてパイプラインがあればトラックでの輸送と比べて少ないエネルギーで運べますが、現在日本ではパイプラインが整っていないため、新たに設置するのにコストがかかってしまいます。

そこで私たちは、あえて生産や輸入によって臨海部で得た水素を遠くまで運ぶようなことはせず、港などを利用して水素シティを作り、輸送コストを抑えて利用するという方法を考えました。それこそが、私たちが描いた水素シティの案なのです。

日本国内で工場の排熱と再生可能エネルギーを使い、海水から水素を「SOEC」によって生産します。また海外と日本で水素の取引をする際はアンモニアという形で輸出入を行います。水素は電力のバランスを整えたり、工場の熱として利用したり、燃料電池自動車を動かしたりできます。また、余った水素はアンモニアに変えて貯め、必要な時は水素に戻したりそのまま電力にしたり、肥料などとして利用したりします。さらに水素の発電で発生した水は飲料水として販売します。このように水素シティではただ水素を使って発電するだけではなく、様々な産業と関係しながら地域に貢献していくでしょう。こうして港で水素を多く使うと、やがて水素の需要が増えて価格が安くなり、港から離れた所へと少しずつ水素が普及していくのではないでしょうか。

報告に来てくれた生徒一人ひとりが、活き活きと輝いていました。

無限の可能性を予感しました。

「『可能性の扉を開く鍵』がきっと見つかる」

☆科学技術高校☆